できるだけ削らない治療法
「最小侵襲療法」A

MI(Minimal lntervention Dentistry)

静岡県三島市開業
      菊地 誠


 診査診断に用いられるものは目に見えるものと目に見えないものがあることは前回書きました.目に見えないものとして唾液検査を上げましたが,レントゲンもまた重要です.パノラマ撮影とデンタルが通常使われていますが.より詳細に読影を要する場合にはデンタルが非常に有効です.規格撮影をする技術,アナログの場合は現像管理,もちろん繰り返し鍛えられた読影の力も必要です.一方,患部が目で直視できる事も歯科の特徴の一つです.人間の目は実に良くできています.ピントと自動露出は完璧ですが唯一ズームができません.よく見ているはずの口腔内もルーペや実体顕微鏡を利用し拡大の目を持ち日常臨床に取り入れることは全く新しい世界が広がりますので強くお薦め致します.

 同じように,撮影した口腔内写真,レントゲン等をテレビモニターに拡大するだけで非常に見やすくなります.

 また,見る目を増やすと言う事も大事です.一人の見る目では見落としも考えられるので衛生士と歯科医が日を異にして観察することも必要です.気がついたことは衛生士も含めて細大漏らさず記録することが大事です.

2.臨床的判断決定

 臨床的決定に際して大事なことは最終的な判断は患者が決定することです.生死に関わるガン治療に際しても最終判断は患者が決めることが当たり前のように,ましてや「生活の医療」である歯科は情報を提供して問題を共有することにより患者の価値観を理解し判断を手助けするのが歯科医療従事者の役目だと思います.もちろん再生医療がまだ現実的でない今は一般的に控えめな介入が優先されます.う蝕が進行性のものか進行がそれほど早くないかも判断が必要です.ここでは誠実で正確なコミュニケーションと将来的見込みを伝えることです.そのとき単にコミュニケーションスキルといったものだけでなく,コーチングやカウンセリングの知識が必要でしょう.理解と協力のもとに治療は進みます.

3.生物的介入と物理的介入
 う蝕に対しての介入の仕方は大きく分けて二つあります.予防や管理,再石灰化などの内科的対応,ここでは生物学的介入と呼びます.これはチーム医療では主に歯科衛生士がリスク管理やモニタリングを通じて受け持ちます.「う蝕という疾患」そのものに対して原因を改善しようというものです.もつ一つはいわゆる切削を加える,外科的なOperative Dentistry ここでは物理的介入と呼びます.これは単に欠損という障害に対しての事後処理型の介入です.穴は埋めても「う蝕という疾患」の原因を改善したわけではありませんので物理的介入だけで対応が完結するわけではありません.どちらかというと今までの歯科医療は切削するか,そうでないときは放置されていたような気がします.切削をするということはいくらダウンサイジングしてもすでに「マキシマムインターペンション」です.一般の人がメスを他人に使用すると傷害罪になるように、歯科医が歯牙をタービンで切削をして良いのは他に方法がないからということを忘れてはいけないと思います.

生物的介入 
(う蝕という疾患に介入) 
●内科的
●予防・管理
●原因療法 
主に歯科衛生士 
物理的介入
(欠損という障害に介入) 
●外科的介入 ●修復処置 
●対症療法 
歯科医師 

 実際に生物的介入はカリオロジーに基づきリスクを改善していくわけですが,フッ化物の応用も良くできたメンテナンスプログラムも「実践」していただかないと机上の空論となります.いかに患者と問題を共有し認識して自主的に行動してもらうかがキーポイントです.「こんな事をしてきたからこのようになったのだからこうしなさい!」では患者と敵対関係になりますので,一度患者の感情を受け入れてから「原因思考」ではなく「結果思考」で現実と理想のギャップを埋めるように解決していきます.その時のキーワードは「そうですね,わかります」「どのような状態になりたいですか?」「最初の一歩として何ができますか?」などと聞いてみます.
 物理的介入は,充填処置についてお書きします.

@形成(デサイニング)
 機材としては主に高速回転切削の機材を使用します.タービンや高速FGコントラでエナメル質を切削します.MIを意識してあまりにも小さいアクセスホールだと次からのステップである感染歯質の除去,接着処理や充填などが難しくなりますので程度問題です.

極端にバーの先が小さいがアクセスオープンに使用したり,裂溝を追ったり,周囲の歯牙に傷を付けないようにするにはこのようなバーも使用する.

 また遊離エナメルをどこまで残すかに関してはエビデンスや臨床データがあまりありませんので,レジンでバックアップするにしても咬合や形態修正のしやすさを考慮します.特に隣接面はコンタクトの強さの調整や3次元的な豊隆を与えるのが難しいですので状況により遊離エナメルを残したりトンネリングをする事が後で有利になります.また上顎臼歯部の頬側遠心面のう窩や支台歯形成した脇の隣接面カリエスなどはエアースケーラーにつけるKaVo社のSONICflex angleなどを利用すると通常の回転切削器具でも届きにくい歯面を軟組織や周囲の歯質を傷つけることなく形成できます.

SONICfllXシステム

歯肉を傷つけないので出
血を防ぎます

上顎の頬粘膿によりター
ビンが入らない時や頬粘
膜を巻き込み易い時にエ
ナメル質だけトリミング
する
臼歯部の隣接面の根面カ
リエスなどは咬合面から
アプローチすると切削量
が増えることもある.ダ
イヤモンドは片側のみに
ついているため隣在歯は
傷つけない

補綴物をはずしたら隣在
歯にう窩が……と言うこ
ともしばしばあります
回転切削器具では器具の
到達が難しく,また歯肉
からの出血を引さ起こす
と後の接着操作に影響し
ます

A感染歯質除去
 感染歯質の確認は「う蝕検知液」を使用することが基本となります.トンネリングなどで開拡部が狭い場合はルーペや顕微鏡を併用するとより確実に行えると思います.歯髄から遠い部分は回転切削で行い,より歯髄に近い部分は手用スプーンエキスカベーターを使用して丁寧に取り除きます.回転切削を行う場合でも注水下で回転を下げて使用します.スプーンエキスカベーターのメリットは歯質の硬さを感じ取れること,方向や力をコントロールしやすいので必要以外の軟組織や硬組織を傷つけないこと,また,局所麻酔の使用頻度や量を減らすことができることです.一方,切削量を減らす事がかえって器具の到達や感染歯質を見ることを阻害する揚合は確実に処置が行えるように切削する必要があります.どこまで取り除くかは非常に難しいのですが,染め出し液は歯髄に近い部分は健全な歯質でも染まりやすいので,手指感覚を大事にして取り除きます.シール.ドレストレーションと取り残しは違いますので間違えないようにします.

隣接面カリエスを隣接面
からアプローチします

エアースケーラーにつけ
たSONICsystemでエナメ
ル質を切削します

歯肉を傷つけないように
丁寧にアプローチする

各種スプーンエキスカベ
ーター,アングルがつい
ているものとストレート
のものがある

《続く》