できるだけ削らない治療法
「最小侵襲療法」B

MI(Minimal lntervention Dentistry)

静岡県三島市開業
      菊地 誠

防湿・接着
 感染歯質を除去した後に接着操作に入ります.ここでのポイントは二点,防湿とメーカー指定の確実な手順に基づいた接着操作だと思います.防湿の基本はラバーダムになります.確かに臨床の場でワンステップ増えることは面倒ですが,術野を明確にできることや唾液の汚染を防げることなどのメリットは一度使い出すとその有用性を再確認できると思います.なにより精神的な安静感を得られます.
 患歯に直接クランプを掛けられない場合は隣在 歯を利用します.クランプを二つ使用してもかま いませんし,写真のようなゴムを利用すると ワ ンタッチで固定できます.

 歯頚部など窩洞の場所などによりクランプが処置を妨げる場合は隣在歯にクランプをかけ,ゴムを伸ばすことにより対応します.また,「ZOO」というバキュームやイジェクターに接続して連続的に吸飲する装置もあります.小児用,大人用などサイズがありますのでこちらも大変重宝します.また歯頚部付近など歯肉に接する部位は圧排糸にて圧排すると止血や歯肉溝からの浸出液による汚染を防ぎ,歯肉を根尖側へ移動すると同時に歯肉溝深くヘボンデイングが流れこむのを防ぎます.充填後は圧排糸をはずすことにより余剰ボンデイングの除去ができます.結果として研磨や形態修正時に歯肉への侵襲を防げます.

 上の写真は「ZOO」.唾液の量が多い方に持続  的に吸飲します.小児にも有効です.右の写真  は「バイタインリング」コンタクトを若干広げなが ら三次元的な面を作り出す.歯頚部付近の適合 が悪い場合はウエッジを利用する.

 隔壁やマトリックスはいくつか種類があると便利ですが問題もあります.

 @ 隣接面などその歯牙固有の形態を立体的に囲む事が難しい.
 A 小臼歯など根面に凹部がある所にフィットさせるのが難しい.
 B 毛細管現象で血液や浸出液を吸い上げてしまう.
 C コンタクトの強さや面積を調整することが難しい.
等です.
 対策として@に関しては3次元的に湾曲したマトリックスを使用すること,Aはリングだけでなくウエッジを利用する事や圧をかけて歯肉へ溢出しないようにフロアブルレジンで先に歯頭部付近のみ流し込み硬化させ,その上にパッカブレジンで圧接する.

隣接面に通常のセルロイドストリップスを曲げると二次元的なカーブを描きますが,写真のようなマトリックスやストリップスを使用すると立体的な面を作ることが可能である.

上段左石写真「ワルサーマトリッツェン」,「O」型の場合は近遠心,「]」型の場合は隣り合った隣接面を同時に一つの装置で囲むことができる.下段は各種「ウエッジ」歯問の広さや幅に合わせた対応ができるように各種用意すると便利です.
 Bはマトリックスを使用する前にフロアブルレジンで象牙質をカバーして歯牙の創面をカバーする,その後積層する.もしくは思い切って当日の充填操作を後口に延ばす等も一つの手です.Cは直接法の限界もあります.@からCに共通するのですが充填に固執しないで,間接法でインレーなどに変更するという判断も必要です.臨機応変に対応します.
 接着操作に関しては,顕微鏡下で色が付いているボンデイングを使用し処置をしていて気がついた事ですが気泡などで思ったはどボンデイングが窩洞に行き渡らないことがあります.スポンジでも筆でも窩壁に沿って印象材に石膏を注ぐように繊細に行わないと.確実に接着ができないようです.同時に余剰ボンデイングをエアーブローでとばす時にも一方からエアーをかけると窩洞の隅に多量に残っていたりしますので要注意です.

照射器の先はボンデ
イング等で汚れやす
い.感染予防と光量
低下を避けるために
カバーが有用.

 充填はデッドスペースが無いように注意します.スプーンエキスカ等で不定形に感染歯質を除去したあとはそのままレジンペーストを不用意に充填すると必ず気泡を巻き込みます.一層フロアブルレジンでなめらかに窩底を修正して重合した後ですと万が一ギャップができても歯質には直接影響が出にくいと思われます.
 また,重合ライトは定期的に光の強さをチェックします.先端がボンデイングで汚染されていると感染の問題だけでなく光が減弱されます.またハロゲンライト以外のプラズマやLEDなどの光源を用いる場合は,光触媒の種類により照射光の波長が合わないと十分に重合されないことがありますのでメーカーにて確認してください.

形態修正・研磨
 使用する機材はf fのダイヤモンド系とカーバイト系です.カーバイト系はエナメル質を大きく削らないのでバリをとるように使用します.咬合面は裂溝を表現することが難しいと思いますがいくつかのバーを利用すると便利です.隣接面はグイヤモンドのストリップスやセルロイドストリップスを使用します.このときにコンタクトを落として隙間が空きすぎるおそれがありますのでストリップス幅を適度に調整しコンタクトをさける必要があります.いずれにせよ,顕微鏡下で観察すると形態修正や研磨はどうしても歯質も同時に傷つけ,天然歯の表面性状に戻すことは非常に難しい事がわかります.

裂溝を復元しないレジン充填は咀嚼のためにも望 ましくない,一筆書きの様に裂溝を付与できる.

コーティング 研磨後にレジンの表面は細かい凹凸があり,歯質とレジンの境にもギャップがあります.一手間ですがコーティングすると長期の耐摩耗性も上がります.

4.リペア・観察・管理
 インレーや充填物の部分的な二次カリエスはすぐに除去し再治療をするのではなく,部分的修復を試みてみることが第一選択です.そのときは歯質ではなく修復物側を切削します.このときの感染歯質の確認にもマイクロスコープが活躍します.う窩が深かったり、リペアが難しい場合はその時点で間接修復に移行すれば良いと思います.

インレーを除去して再
冶療するより侵襲度は
低い.そのときはイン
レーの方を切削しアプ
ローチする.

石膏模型は色の情報を
取り除いた形態のみを
示す.再充填より再研
磨はファーストチョイ
スとなる.

 

フォローアップ 

 実は一番大事で難しい点です.う窩形成前の白濁のオブザベーションや再石灰化 また修復後の再発を防ぐにはカリオロジーに基づいたリスクコントロールが重要です.いくら穴を埋めても,脱灰と再石灰化のバランスを取り直さないと「赤字会社に損失補填を続ける」ようなものです.ここではチーム医療によって,生活の背景や患者の心まで考慮したヘルスカウンセリング等の知識によって行動変容をおこす必要があります.慢性疾患における最大のリスク因子はメインテナンスの中断かも知れません.
 将来にわたって長持ちするという完璧な処置などあり得ません.切削を加えると言うことはすでに最小侵襲では無いと言うことを再確認して終わりにします.