症状に合わせたTBI@
サンスター歯科保健振興財団千里歯科診療所
歯科衛生士 加茂聡子
TBlは歯科治療において,歯科衛生士が担う最も重要な役割のひとつです.特に歯周初期冶療,う蝕予防においては,TBIの成否が治療の成否の鍵を握る場合もあります.なぜなら,これら口腔内細菌感染症に対し、患者さん自らが向き合う唯一の防御手段が歯みがきであり,その防御手段が適切かどうかは私たち歯科衛生士の手腕にかかっているからです.TBIの成功は私たちが出会った患者さんの生涯にわたる口腔内細菌に対する臨戦意欲となりうることを責任感として自覚し,指導にあたることが必要ではないかと思っています.
これから3回にわたり紙面を拝借し,「症状にあわせたTBI」と題して,私なりの知見を述べさせていただきます.第1回の今回はTBIを行ううえでの基本的な考え方 心構えについて述べさせていただきます.次回からは.それぞれの歯ブラシの特性を確認しつつ,それぞれの患者さんの口腔内に合った歯ブラシの選択・使用方法と,指導のポイントについて,私が臨床で行っている歯磨き指導を紹介させていただく予定です.すこしでも皆様の臨床の一助となれば幸いです.
Vo1.1 TBlを行ううえでの考え方,心構え
プラークコントロール
プラークコントロールが歯周病,う蝕予防において重要なことは,誰もが認識していることだと思います.プラークコントロールは,パーソナルケアとプロフェッショナルケアに大別されます.パーソナルケアは,患者さん自身が日常生活のなかで継続して行うプラークコントロールであり,歯ブラシ,歯間ブラシ,デンタルフロスなどの清掃用具を使用して行う,主に歯内縁上のコントロールのことです.一方のプロフェッショナルケアは,歯科医師あるいは歯科衛生士が行う,主に歯内縁下のプラークコントロールのことで,スケーリング,ルートプレーニング,PMTCなどがこれにあたります.この両者が適切に行われることではじめてプラークコントロールが達成され,口腔内の健康が維持されるのです.この役割分担は,患者さんと私たちの双方が理解しておかなければなりません.
|
|
また,プラークコントロールはその方法によって,機械的プラークコントロールと,化学的プラークコントロールに区別されます.プラークはバイオフィルムとして存在しますので,機械的除去によって始めて破壊されるわけですから,機械的プラークコントロールが主役になります.
したがってTBIは,患者さん自身によるパーソナルケアの,機械的プラークコントロールを主に指導することになります.
ただし炎症が強く,ブラッシングが難しい時期には科学的プラークコントロールが有効ですから,それぞれの症例,タイミングにあわせて使い分けをすることや,機械的コントロール法と併用して行うこともあります.
問診・口腔内審査
TBIを行うにあたり,患者さんのことをできるだけ理解するために,問診・口腔内診査は非常に重要です.患者さんの主訴,現病歴,性格,治療に対する期待度,過去の歯科治療歴などを,問診から充分に聴取するのが理想です.またこのことは「わたしのことをとてもよくわかってくれている」と患者さんに思っていただくことで,両者の間に信頼感も生まれます.その際,「過去に歯磨き指導を受けた経験があるのかどうか」,また「その内容はどのようなものであったか覚えているかどうか」,「それを実践しているかどうか」なども聞き添えるようにします.
次に日常の歯磨き習慣について確認します.現在使用中の歯ブラシや歯間プランの種類は何かなどを聴きだします.ただし患者さんの多くは,自分の歯ブラシの種顆をはっきり覚えていないことが多く,特徴もうまく表現できないことがほとんどですので,現在使用中のものを持参してもらうことをお勧めします.その際,歯ブラシの使用期間(交換時期)や.歯ブラシの好みにこだわりがないかも聞いておきます.使用中のハブラシを見ることで,いろいろな情報を読み取ることができます.例えば毛先の開き具合と使用期間から,長期間使用している割に毛先が開いていない場合には,「ブラッシング圧には問題がなさそう」とか,逆に短期間しか使用していないのに毛先が開ききっている場合には,「ブラッシング圧が強い」などと推測
できます.
さらに患者さんをよく理解するために,職業,家族構成や生活背景を知ることを心がけています.性格,価値観の違いによって指導のアプローチも変える必要があります.患者さんの生活のなかで受け入れやすく,少しでも負担にならないような方法を選んで指導することが大切です.患者さんに対する配慮を怠らなければ,患者さんも指導についてきてくださると思います.
最初の段階でできるだけ情報収集をしておくことが大切ですが,もちろん1回ですべてを聞き出すことは難しいので,反応をみながら慎重に話をするようにしています.問診が終わると次は口腔内診査をします.歯列の状態(残存歯の状態,歯列不正,カリエスの有無,処置歯の数など),歯肉の状態(炎症状態,退縮,着色など).粘膜の状態(舌,頬粘膜),唾液の性状(粘液性 ショウ液性),口腔内の清掃状態など,たくさんの情報が読み取れるはずです.
問診(情報収集) 口腔内
|
ブラッシング圧の推測 使用から1週間 使用から6ヶ月 |
モチベーション
最近では,過去に歯磨き指導の受診経験をもつ患者さんも多くなりました.しかし,一度教わったからといって,実践継続できていることは少ないようです.そのため,指導内容は患者さんにとって少しでも心にのこるように,インパクトのある内容を演出することも必要です.モチベーションを高めるための第一歩として,まず自分の口腔内に関心を持ってもらえるように話をすすめます.問診や口腔内診査で得られた情報から,患者さんが知りたいこと,関心のあることを読み取って説明に活かしていきます.そして口腔内の状況を理解してもらい,病気の存在を自覚してもらうために,必ず患者さん自身に口腔内を鏡などで確認してもらうようにしています.さらに媒体などを用いて,現在の口腔内の症状が,どのような病態であるかを説
明します.そこでようやく,その患者さんの口腔内状態に適したブラッシングの方法を説明し.歯ブラシを選択していきます.患者さんの持ってきた歯ブラシが適切でない場合には,歯ブラシを交換していただきます.それから歯ブラシを用いて一部分だけ術者磨きをします.舌の感覚を使って磨けている状態とそうでない状態を比べて,違いが分かるかどうか確認します.分からない方もいらっしゃいますので,その場合は部位を変えて何度かやってみます.この方法は,患者さん自身に実感していただけるのでかなり効果的です.歯みがき後にはこの方法で確認する習慣をつけてもら
うようにしています.
TBIをした次の来院時には,必ず口腔内の清掃状態を評価するようにしています.ほんの少しの変化にも気付いてさしあげ,患者さんを褒めるように心がけています.患者さんは努力が認められたことでモチベーションが持続する要因ともなるでしょうし,指導がうまくいけば,私自身もがんばって指導・治療をしていこうと思うことができます.お互いのモチベーションの向上につながるので指導後の評価は非常に大切だと思います.
|
歯ブラシの選択
歯ブラシは患者さんと私たち歯科衛生士とをつなぐ重要なツールです.私も最近まで歯ブラシの選択が,患者さんにとってどの程度重要かよくわかっていませんでしたが,私の診療所で実施した患者満足度調査の結果から,「処方した清掃用具の使いやすさ」が歯磨き指導を受けてよかったと思わせる要因のひとつであることが判りました.私たちがいかに患者さんにあった歯ブラシを処方できるかどうかが患者さんの信頼を得ることにつながるのです.
選択の基準としては,歯列の状態・歯肉の状態・患者さんの好み・ブラッシング圧などを考慮しています.ヘッドの大きさ,殖毛部の幅を歯列の状態から選びます.歯列弓の大きさ,歯列不正のあるなしを考慮して歯ブラシのヘッドの大きさを選びますが,ほとんどの方の場合3列植毛の小さめのものが扱いやすいと思います.歯肉の状態からは毛先の軟らかさを選びます.炎症の強い場合には軟らかめ,比較的健康な場合はふつうを選びます.また,患者さんのブラッシング圧の強い場合には,硬めの歯ブラシはあまりお勧めしません.
患者さんが歯ブラシを気に入らなければ使ってもらえないかもしれないので,患者さんの好みも考慮します.いずれにしても使用していただいて,使用感がよく,なおかつ実際に効果があることが重要です.歯ブラシにはそれぞれコンセプトがありますので,実際に私たち自身でいろんな歯ブラシを使用してみて,その使用感をためすようにしています.
また,前述の患者満足度アンケートから判ったその他の要因として,「指導内容の分かりやすさ」,「指導によって生活の変化があった」の2つがありました.個々の方々に理解していただけるように,説明できる能力も必要です.
|
まとめ
今回はTBIを行ううえでの基本的な考え方,心構えについて私の考えを述べさせていただきました.次回はこれらを踏まえたうえでの,実際の臨床例を見ていただきながら,口腔内に合った歯ブラシの選択・使用方法と,指導のポイントについて述べさせていただく予定です.