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評価や周期性四肢運動異常などの睡眠時無呼吸・低呼吸以外の現象を捉えることができないため,SASの可能性の少ない過眠症の患者などでは必要となる.米国では専門技師がattendするが,本邦ではnon−attendのことが多い.また,ナルコレプシーなどの過眠症が疑われる場合には,翌日に2時間おきに4−5回のnapをとり,睡眠潜時やレム睡眠の出現の有無を調べる睡眠潜時反復テスト(Multiple sleep latancy test.MSLT)が施行されるのが標準的な方法であるが,本邦ではMSLTの健康保険は適応されていないため,ごく少数の医療機関のみでしか臨床的に施行されてい
ない.
d.セファロメトリーは臨床的に有用か?
 セファロメトリーは顎顔面骨の形態ならびに軟口蓋,舌,上気道部を計測し,OAや外科手術などで閉塞部位を判断したい場合に資料の一つとしては利用される.しかしながら,@重症SASではCPAPが第一選択であり,CPAPでは閉塞部位診断は必要ない.A閉塞部位は睡眠中にdynamicに変化し,また,セファロメトリーは通常は立位による評価であることから,その閉塞の程度が睡眠中の閉塞を反映するものとは言えない.B二次元的にしか評価ができない.などといった問題点があり,睡眠呼吸障害の診療では決してroutineに必要とする検査ではないと考えられる.
 なお,手術適応を決定するためにMRIなどにより上気道の閉塞を明らかにする試みもされているが,MRIはごく短時間の睡眠下での閉塞拠点の観察に過ぎず,睡眠深度やレム睡眠によって上気道の筋活動や吸気圧などにより刻々と変化する上気道の閉塞部位の全てを明らかにすることはできない.このため,たとえMRIで軟口蓋レベルに閉塞があると考えられても,さらに舌根部での閉塞などが生じている場合も多いため注意が必要である.

6.治療

 SASの第一選択はCPAPであることはほぼ確立されており,特にEDSや高血圧などの合併症を伴う中等症以上のSASの患者には,安易にOAを含め他の治療を薦めるべきではない.しかしながら,EDSはSASに関わらず睡眠不足や不規則勤務でも生じ,高血圧などの合併症もSASだけで生じるものではない.
a.生活習慣,睡眠導入薬や精神安定剤の服用
 生活習慣の問題として,飲酒や精神安定剤の服用の見直し,体重減量などがある.飲酒や精神安定剤,睡眠導入薬の服用は上気道拡大筋活動の低下を生じ,上気通閉塞を悪化させる(図2).

図2 上気道閉塞のメカニズム(Dou9IaslO)による
      ものを−部改変)

咽頭腔は柔らかいチューブと考えられる.肥満および上気
道の形態的問題は咽頭脛を圧迫し,上気逼拡大筋活動に
よって閑大させている.睡眠 加齢,アルコール,精神安
定剤などによって上気道拡大筋活動は減弱する.

 SAS患者での睡眠導入薬は睡眠中の無呼吸を悪化させないとの報告があるが,実際の臨床では,重症度については不明であることが多いため,睡眠中の無呼吸や激しいいびきのある患者では睡眠導入薬の慎重な処方を必要とする.なお,肥満を呈した重症SAS患者に減量のみを指示するのは問題である.体重が10%減少することにより,約20%程度のAHI(1時間あたりの睡眠時無呼吸/低呼吸回数)が減少するとされているが,減量は一般的に非常に難しく個人差も大きいため減量のみで改善する症例は非常に少ない.

b.n CPAP療法(図3)

 
 図3 nCPAPの原理

OSAHSの患者では舌根部や軟口蓋などの部位で上気道が
閉塞している(左).閉塞している柔らかい咽頭腔に鼻マ
スクにより経鼻的に圧力を加えることにより上気道が開大
する(右).nCPAP機器は約800g〜2kgで小型のカバンく
らいの大きさである.


 nCPAP療法は有効性が非常に高く副作用もほとんど認めない治療であり,現在,第一選択の治療と考えられている.1998年に健康保険が適応となり,われわれもすでに約2300名のSAS患者へ導入した.AHI30/hr.以上の症例,AHI30/hr.未満でもEDSや高血圧,脳血管疾患 心疾患などの合併症のある場合が適応と考えられている12).なお,本邦の健康保険適応の基準はAHI20/hr.以上の症例である.
 nCPAP導入で大切なのは,患者への適切な説明や教育,マスクの選択,CPAP機器の選択,CPAP圧の設定である13).空気のもれがなくフィット感の良いマスクを選び,医療者が側について低圧から患者さんに試してもらう.CPAP機器は技術の進歩が著しく,特にauto CPAPの登場によって,習熟した医療者でなくても圧調整が容易になった.しかしながら,重症SAS患者でもnCPAPの使用困難な場合はあり,患者数育,マスクの変更,加温過湿器,bilevel PAP,auto CPAPの利用など,医療者のskillがコンプライアンスに重要である.
c.Orar appliance(OA)
 下顎を前方に移動させるように固定することにより上気道閉塞を改善させ主として軽症のSASやいびき症で使用される.下顎が小さく後退傾向にある症例や側臥位になると睡眠時無呼吸/低呼吸が軽快する症例では有効性が高い.
 AASM(米国睡眠医学会)のTask forceによるOA適応の基準14)では,@体重減量や体位指導などに反応しない軽症SASや原発性いびきACPAP拒否あるいは継続できない中等症から重症SAS症例,あるいは必要な外科的治療を拒否する症例とされており,SIGNのガイドラインでも同様である.軽症から中等症のSASだけでなく,重症SASでも有効性が高いというrandomized controlled studyの報告15)もあるが,C PAPとのrandomized crossover studyでは,日中の眠気の客観的評価や認知機能などには有意差を認めなかったものの,日中の眠気,QOLなど患者側の評価では,軽症であってもCPAPの方が良いという報告されている16).本邦のSAS患者では肥満度が低くOAの有効性が高いという報告もあるが,有効性の評価が甘いなどの問題があり現在のところCPAPと同様の有効性があるとは言えない(図4)

 
図4 有効性評価のpitfall(落し穴)


有効性を甘く評価し治療後AHI 20/hr.以
下になったものを有効とすると20例中17例
(85%)が有効となる.しかしながら,
AHI 10/hr.以下を有効とすると11例(55
%)となり,さらに条件としてAHIが治療
前に比べると50%以下になったものと考え
られると,その有効であると考えられる症例は
7例(35%)まで効率は落ちる.

 

 多数例の長期成績の検討もほとんどされていないのは臨床的に大きな問題でもある.CPAPの小型化,auto CPAPやマスクの開発などは急速行われており,以前よりCPAPは苦痛でなくなりつつあり,これまで言われてきたようなOAの方が患者のコンプライアンスが良いという評価は低下しつつあり,現時点では,OAをSASの第一選択とするのは問題がある.
 SAS治療の第一選択はCPAPであるが,本邦でのCPAPの保険適応はAHI20/hr.以上であり,AHI20/hr.未満の軽症から中等症のOSAHSや単純性いびきの患者ではOAが選択されることが多い.また,CPAPを拒否する症例や保険診療上CPAPが使用できない症例などではOAは治療の選択肢の一つとして有用である.実際われわれの施設でも,これまでSASやいびき症の患者約6000名の中で約10%(600例)の患者にOAがorderされており,健康保険適応による自己負担の軽減でさらに増加する可能性がある.
d.手術
 小児では,アデノイドや口蓋扁桃肥大が原因のことが多く手術が第一選択となる.成人ではUPPPが施行される場合があるが,その有効性は約50%と低く術後に激しい疼痛があることや長期成績における問題があり,成人では第一選択ではない17).最近になり,レーザーによって簡易なUPPPが施行できるようになってきた.短時間で可能であり,疼痛が少ないなどのメリットは大きいが,睡眠時無呼吸/低呼吸の改善は乏しいと考えられる18)


7.おわりに

 これまで一部の睡眠研究者によって行われていたSAS診療は,まだ,欧米と比して遅れてはいるものの医療として急速に広がりつつある.SASやいびきで悩む患者は多く,OA作成のため歯科診療を必要とする患者は今後も増加することは間違いない.しかしながら,患者ニーズが高いからといって,他の治療法と比較したadvantageやdisadvantageを説明することなく,OA治療をすすめることは決して患者のためになることではない.OAの健康保険の適応を契機に歯科でも睡眠医学教育がなされていくことが医科と歯科の連携,そして何よりも患者のために望まれてならない.

 

参考文献
1)AASM task force. Sleep-related breathing disorders in adults.recommendations for syndrome definition and measurement tecbniques in
clinical research.Sleep 1999:22:667−689
2)Young T,Palta M,Dempsey J.et al.The occurrence of sleep−disordered breathing among middle−aged adult. NEJM 1993 ; 328:1230−1235.
3)工藤翔治.社会問題となった睡眠時無呼吸症候群.日医雑誌2003:130:1673.
4)堀江孝至,工藤翔治.社会の中の睡眠時無呼吸症候群.日医雑誌 2003:130:1677−1681.
5)工藤翔治,堀江孝至.睡眠障害とスリーマイル島原子力発電所事故などとの関わりの正確な認識.日医雑誌2004;131:496.
6)Nieto FJ.Palta M,Dempsey J.et al. Association of sleep disordered breathing,Sleep apnea,and hypertension in a large communitybased study:JAMA 2000:283:1829-1836
7)Shahar E.Whltney CW,Redline S.et al:sleep disordered breathing,and cardiovasclar diseaae, cross-sectional results of the sleep heart health study : AJCCM 2001 ; 163:19-25
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10)Douglas NJ.Clinicians'guide to sleep medecine.London:Arnold
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11)大井元晴,谷口充孝.睡眠暗無呼吸症候群の診断と治療:診断へのアプローチ:睡眠呼吸検査.日本内科雑誌 2004;93:22−28
12)Laube DI,Gay PC,Strohl KP,et al.Indications for positive alr-way pressure treatment of adult obstructive Sleep apnea patients.
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13)大井元晴,岡村城志,谷口充孝.睡眠呼吸障害の治療:nCPAP
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14)Standards of practice commlttee of the ASDA Practice parame-ters for the treatment of snoring and obstructive sleep apnea with oral appliances.Sleep 1995;18:511−513
15)Mehta A,Qian J.Petocz P.et al.A randomized controlled study of a mandibular advancement splint for obstuructive sleep apnea.
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:continuous positive airway pressure and mandibular repositioning splint.AJCCM 2002:166;855−859
17)Standards of practice committee of the ASDA.Practice parameters for the treatment of obstructive sleep apnea ln adults :the efficacy or surgical modifications or the upper alrWay.sleep 1996;19
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18)Standards of practice committee of the ASDA.Practice parameters for the use of laser−assisted uvulopalatoplasty.sleep 1994;17
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