症状にあわせたTBIB
サンスター歯科保健振興財団千里歯科診療所
歯科衛生士 加茂聡子
最終回の今回は,前回の歯ブラシの選択・指導方法にひきつづき,補助的清掃用具,歯磨剤,フッ化物の応用について,これらを患者さんの症状に合わせてどのように選択し指導しているかをご紹介します.
VOL.3
補助的清掃用具
患者さんがどんなに努力をしても歯ブラシだけでのプラークコントロールには限界があります.歯ブラシ一本では口腔内の約60%のプラーク除去しかできないという報告もあります.なかでもプラークの残存は歯間部が多いことから,補助的清掃用具の指導は歯間部への指導が中心になります.補助的清掃用具の指導は,歯ブラシの使用方法と同時に指導する場合もありますが,多くの場合は歯ブラシでの清掃が上達した頃に指導を行ないます.
(1)歯間ブラシ
もっとも頻繁に使用する補助的清掃用具です.歯間ブラシは歯肉に炎症のある場合に使用するとしばしば出血をともなうため,恐怖感をもたれる方もいらっしゃいます.出血する理由を理解してもらい,歯肉の炎症の軽減・消失とともに出血はなくなることをあらかじめ説明しておきます.また,「歯間ブラシを使用しはじめて隙間が広くなった」と訴える患者さんもいますので,多少の歯肉退縮はおこるがそれは歯肉が引き締まるためであり,適したサイズを正しく使用していれば,必要以上の歯肉退縮はないことも説明しておく必要があります.
サイズの選択は,おなじ口腔内でも,歯間空隙の大きさが不揃いであることもあるので注意が必要です.歯間空隙に対してギリギリ挿入可能な大きさは歯肉に傷をつけやすく,必要以上の歯肉退縮を引き起こします.歯間ブラシ挿入時に抵抗を感じない程度の少しゆとりのあるサイズを選択します.ブラシを近心,遠心の歯頚部に沿わせ,一箇所につき5〜10往復させるように指導しています.
このときに歯面に歯間ブラシを力強く当てすぎないように気をつけてもらいます.特に歯根が露出している患者さんの場合には磨耗させる危険が高いため注意が必要です.使用頻度は1日1回の使用をお勧めしています.
(2)デンクルフロス・糸ようじ
歯列不正などで歯間部の空隙に歯間ブラシを通すことができない人や,隣接面カリエスの多い患者さんにはフロスを指導します.基本的にはフロスを指に巻きつけて使用する方法を指導しますが,一般的には歯間ブラシよりも難しく,患者さんによっては上手く使えない場合もあります.なかには,「面倒くさい」と使用を拒まれることもあるので,そのような方には比較的簡単な糸ようじを勧めます.毎日の歯磨き時に継続して使用していただきたいので,無理のない方法を選んで指導するようにしています.使用するフロスは特に指定しませんが,指に巻きつけやすく,コンタクトを通過するときのすべりがいいので,ワックスタイプを選んでもらうように勧めることが多いです.臼歯部には歯間ブラシ,空隙の狭い前歯部にはフロスと使い分けをお勧めする患者さんもいます.
(3)タフトブラシ
孤立歯の周囲や最後臼歯の遠心面など,歯ブラシで届きにくい部位にはタフトブラシをお薦めます.
歯磨剤
歯磨剤は基本的には患者さんの好みを優先していますが,TBIの際には,何らかの選択の指標を提示してさしあげるようにします.例えば,むし歯予防に関心のある患者さんにはフッ素入りのものをお勧めします.市販の歯磨き剤を買うときに箱の裏書を見てフッ素配合のタイプを選んでもらうように薦めます.
歯周病などで歯根が露出し,知覚過敏を訴えられている方には,デンタルジェルセンシティブをお勧めします.
硝酸カリウム/塩酸クロルヘキシジン/フッ化ナトリウム配合で,硝酸カリウムが象牙細管内に作用して歯髄神経の伝達を阻害し,フッ素の作用で象牙質の細石灰化を促進します.約1カ月の使用で症状に改善が見られますが,それでも治まらないケースは,知覚過敏の原因が,間違ったブラッシング方法やブラッシング圧に起因している可能性があるので確認が必要です.
歯周治療後に歯根露出を認める場合には,根面カリエスの予防を重視し,デンタルケアペーストをお勧めします.
フッ素の助剤の酸化亜鉛が,根面象牙質の脱灰抑制に効果があります.歯根露出している歯は磨耗しやすいため,研磨剤が無配合のデンタルリキッドジェルをお勧めすることもあります.フッ化ナトリウム配合で根面カリエスの予防にも適しています.歯間ブラシの使用時にお使いいただくと爽快感があるので患者さんからも好評です.発泡剤も無配合なので電動歯ブラシを使用されている患者さんにもお勧めしています.
フッ化物応用
初期虫歯が多数認められる患者さんや,矯正治療中の患者さんなど,カリエスリスクの高い患者さんには積極的なフッ化物応用をおすすめしています.以下にいくつかをご紹介します.
(1)レノピーゴ
スプレータイプのフッ化物溶液で歯磨き後,歯ブラシに吹き付けて使用,または直接歯に吹き付けて使用します.歯磨き剤ではなく,歯磨き後の仕上げで使うタイプです.
(2)ミラノール
フッ素入りの洗口剤です.粉を水道水に溶かして溶液を作るので,多少手間がかかりますが,うがいをするだけなので使用法は簡単です.
(3)ホームジェルなど
フッ化物ジェル.フッ化第一スズ配合 歯磨き後に歯ブラシにつけてぬります.
これらの商品は,味や使用方法が違うので患者さんの好みや生活の中に受け入れられやすいものを選択します.どんなにいいものであっても患者さんが気に入らなければ使用してもらえないこともあるので,購入前に味見をしてもらうよう配慮しています.
まとめ
症状にあわせたTBIと題し,3回にわたって私なりの考えを述べさせていただきました.同じような症状の患者さんでも,その方の性格や生活背景などによってアプローチの方法は変わってきます.もっとも大切なことは,いつも患者さんの側に立って考えるように心がけることです.うまくアプローチし指導することで,患者さん自身が病気を自覚し,回復を実感できるようになってもらえればTBIは大成功です.
せっかくの出会いですから,できればTBI終了後も定期検診をうけていただき,体調や生活に変化がないかどうか,それに伴った口腔内の変化がないかどうかを責任もって口腔内の健康を管理・維持していくこともTBIの大切な役割だと考えます.
(終わり)