研究講座
歯のホワイトニングA
大阪歯科大学 歯科保存学講座
講師 白石 充
(つづき)
2.前処置
@齲蝕処置,再修復
漂白処置までに,漂白対象あるいはその隣在歯の齲蝕処置や,辺縁漏洩が懸念される既存の修復部位の再修復が必要です.なお,漂白前に終了後のシェードを予想して修復しておくことは非常に困難であるため,漂白終了後の色に合わせて,再度修復が必要になる場合もあることを予め説明しておくことも必要です.
A歯周処置
歯肉炎等が認められる部位では,浸潤液などにより,漂白剤の漏洩が起こり易いことが考えられ,歯周治療を先行して行います.
3.メインテナンス
漂白期間中
@エナメル質の保護
漂白法は歯を削らないとはいえ,漂白処理直後のエナメル質表層の耐酸性が低下している恐れがあります.対策としてフッ化物の応用などが考えられます.オフィスブリーチングなら毎回漂白処理終了後に,ホームブリーチングなら定期的に,診療室においてフッ化物含有歯磨剤による歯面清掃やフッ素塗布などの処置が有効と考えられます.(オフィスブリーチングとホームブリーチングについては表4.漂白の種類参照)
表4 漂白法の種類 |
無髄歯 |
@Walking
Bleach法(図1)
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AOffice Bleach剤を使用する方法(図2)
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有髄歯 |
@Office
Bleach法 ・35%過酸化水素水+ハロゲン,ブラズマアーク,アルゴンレーザー
(図3) ・7.5%過酸化尿素+カスタムトレー ・15%過酸化水素水+ガス・プラズマライト
・6%過酸化水素水+二酸化チタン+光照射
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過酸化尿素(10%,15%,20%)+カスタムトレー(図4) |
また,患者さんに自宅でフッ化物含有の歯磨剤やジェルを使っていただくのも有用といわれております.ホームブリーチイングのカスタムトレーを利用して,漂白後にフッ素ジェルを填入し,数分間装着させるといった方法をとる場合もあります.しかし,この場合に使用するフッ化物がフッ化第一スズであると,漂白直後のエナメル質表面に灰色の紋様状の着色が起こる場合があるとの臨床報告があります.フッ化第一スズはエナメル質の耐酸性向上効果としては有効ですが,漂白直後のエナメル質に長時間作用すると,スズイオンの影響で灰色の着色が起こってしまうのでないかと考えられます.
A再色素沈着の抑制
漂白当日とその翌日は,コーヒー,紅茶,赤ワイン,カレーなどの着色しやすい食物の飲食あるいは喫煙は避けてもらう必要があります.ホームブリーチングの場合は,数週間継続して行うことになるので,その間,全くそれらの物を口にしないというわけにもいきませんから,その日の最後の食事を取ったあとに,ホームブリーチングを行い,トレーを外したあとは寝るまで,飲食を避けてもらう方がいいでしょう.
B知覚過敏と軟組織の状態の観察
漂白処置後に知覚過敏が発生する場合がありますが,長くても数日で症状はなくなります.歯髄細胞の状態を調べた報告によると,歯髄細胞自体に炎症症状は認めれず,処理時の加熱時間や反応時間を極端に延長すると炎症症状が現れるが,その反応も可逆的なものであるとされています.アメリカでは,日本で許認可を受けているホームブリーチング剤よりも,過酸化尿素の濃度が高い物が使用されており,その中に知覚過敏抑制剤が添加された製品が販売されていますが,現在日本で販売されている製品を使用して,知覚過敏が数日経過しても軽減しない場合には,通常の知覚過敏処置行うことになります.
一方,歯肉などの軟組織への刺激があった場合は,術中あるいは術直後に患者さんが『ピリピリ』といった感覚を訴えることがほとんどです.オフィスブリーチングの場合は,刺激を感じている部位付近への漂白剤の液漏れが原因ですので,漂白剤を除去し水洗を行えば消失します.ホームブリーチングの場合は,一旦トレーの装着を中止し,漂白の1回量を減らしてから再装着するなどの指示をします.
C漂白効果の確認
オフィスブリーチングならその日の処置が終了後,ホームブリーチングなら漂白期間中の経過観察時に,シェードガイドあるいは歯科用色彩測定器などを用いて(図5,6),漂白前との変化を患者さんと共に確認してもらい,歯科医側だけではなく,患者さんが漂白効果をなんとなくではなく具体的に自覚してもらうことにより,漂白期間中の食事制限や漂白終了後のメインテナンスに対する患者さんの協力が得やすくなります.
漂白終了後
@漂白終了後の保存,補綴修復
漂白により白くなった歯の色と既存のレジン修復部分や隣在歯の補綴物の色とが,マッチしなくなることがあります.その場合に,漂白後のシェードに合わせた再修復が必要となります.
また,漂白のみではあまり効果が得られないような症例の場合,漂白終了後にラミネートベニア等の審美性修復を行うこともあるでしょう.
これらの修復処置を行う場合には,漂白終了後数週間ほど期間をおき,漂白した歯の色が落ちついてから,修復物のシェードを合わせ方が良いと思われます.また,漂白直後の歯面には,漂白剤の過酸化水素からの反応による発生酸素が残留しており,レジンの重合を阻害する危険も示唆されております1).
漂白後の歯に対してコンポジットレジン修復を行う場合は,従来のA,B,Cシェードのレジンでは,漂白後の歯冠色に合わせ難い場合があります.最近,そのような症例に対応して,ブリーチングシェードといったような従来の製品よりも明度の強いシェードのレジンが各メーカーから販売されております(表5)ので,これらを使用することも有効でしょう.
表5 ブリーチングシェードを有するコンポジットレジン
テトリックセラム/フロー
(VIVADENT) ビューティフィル
(松風) クリアフィルST
(クラレ) A110,Z250
(3M/ESPE) ほか |
※漂白後の再修復等の可能性については,漂白開始前のカウンセリングにおいて,患者さんにはしっかりと説明しておくことが大切です.
A歯の色の経時的変化,後戻りの観察
漂白効果は終了から少しずつ減じていきます.ある報告2)では,漂白終了後6ヵ月経過した症例を測色計により計測した結果,色の後戻りを示す傾向が認められるとあります.ただ,この場合でも,漂白前と比較すると有意に明るいシェードであり,患者さん自身も認識し難い程度の後戻りであることがほとんどです.また,テトラサイクリン変色歯の変色度が2,3度といった漂白効果が生じ難い症例(前回の表2)では,後戻りも多いといわれています3).
長期的には,2年以上経過すると患者さん自身も着色や後戻りを自覚したり,家族の意見で気にするようになる症例があります.一方で,4年以上経過しても,患者さんはほとんど気にならなかったという臨床報告もあります.いずれにせよ漂白以前の状態に完全に戻ってしまうわけではありません.
漂白効果の後戻りや色素沈着を抑えるためにも,患者さんには定期的に来院していただきPMTCなどを行い,もしも漂白効果が減じて,患者さんも気にされる場合には,再漂白を行います.なお,この場合には,前回よりも短い期間で効果得られます.
B修復物の診査
基本的にはコンポジットレジンの表面粗さや強度に,漂白剤による影響は認められません.漂白以前のレジン修復が漂白により,破折や脱離するといった心配はないと思われます.しかし,漂白直後の歯質に対するレジン修復あるいはレジンセメントの使用は過酸化水素からの発生酸素の残留によりレジンの重合が阻害される恐れがあるため,数週間経過してから行うことが勧められています.
漂白効果は半永久的ではありません.しかし,歯質を切削していないからこそ再漂白も可能です.他の歯科治療と同じく,終了後の継続的なメインテナンスの必要性を漂白開始前ならびに漂白終了時に患者にしっかりと理解していただくことが重要です |
文献
1)東光照夫,久光 久 他:漂白歯の物性に関する研究(第3報)漂白剤が象牙質へのレジン接着性に及ぼす影響;日本歯科保存学会誌 34,358-364,1991.
2)中島勇人,小河宏行 他:バイタルブリーチングの効果に関する臨床的研究(第一報)―色調と表面性状の変化―;歯科審美 4,8-13,1991.
3)金子 潤,庄内砂恵子 他:テトラサイクリン系抗生物質に起因する有髄変色歯の漂白;歯科審美 6,188-196,1994.