研究講座

 

歯のホワイトニング@

 

 大阪歯科大学 歯科保存学講座

 助手 白石 充

 

はじめに

最近,「美白」,「ホワイトニング」といった言葉を雑誌やTVでよく目にします.歯科関係でも,ホワイトニング効果を前面に出した歯磨きメーカーのCMや通販商品の宣伝が多くなりました.

歯科医院においても,患者さん側から歯を白くしたいといった相談が増加してきたことも事実でしょう.

日本では,アメリカよりも数年遅れ,1998年に歯科用漂白剤の厚生省(当時)の認可が通り,それまで一部の歯科医だけがされていた生活歯に対する漂白が,広く知られるようになりました.

私個人の意見としては,「歯のホワイトニング」といっても,漂白だけが方法ではなく,コンポジットレジン修復,ラミネートベニア,その他の審美性補綴も含めて,変色歯の症状の改善や患者の審美的欲求に対応する方法のすべてが,歯のホワイトニングの選択肢であると考えますが,今回は漂白についてのみ記させていただきます.

現在,有髄歯に対する漂白方法には,歯科医院で歯科医が漂白剤をエナメル質表面に塗布して行うオフィスブリーチと,自宅で患者さん自身が,歯列に合わせて作製したトレー内に漂白剤を填入し数時間装着するホームブリーチ(各術式については後記)があります.また,無髄歯に対しては,以前から一般的に行われているウォーキングブリーチのほかに,有髄歯にも使用されている漂白剤を髄腔内に用いることで,短期間で漂白効果を得ようとする方法もあります.歯科における漂白は,いずれの場合も過酸化水素,過酸化尿素,過ホウ酸ナトリウムなどの過酸化物による酸化漂白法です.

 


歯の変色の原因と漂白の適応

歯の変色の原因には,表1に示すようなものが挙げられます.

表1 変色の原因

@沈着物

歯垢 歯石

A表面の着色(外来性物質)

食用色素,タバコのタール,

お茶,コーヒー,紅茶,赤ワイン

細菌性物質(清掃不良)

B歯質の着色

(外因性)        

アマルガム,サホライド(フッ化ジアミン銀)

シルバーポイン

薬剤(テトラサイクリン系抗生剤,フッ素症)

(内因性)

先天性(ポルフィリン症,梅毒)

加齢(石灰化,亀裂)

外傷,抜髄による歯髄内出血,

C硬組織疾患

エナメル質形成不全症,齲蝕症

 

当然,すべての症例に対して漂白が適応ではありません.@,Aはスケーリング,PMTCにより改善させることが多いですが,それでも要望が強い場合には,漂白の適応となります.このような症例では,オフィスブリーチ,ホームブリーチのいずれも,比較的効果が早期に現れることが多いです.一方,Bのアマルガム等の金属イオンによる変色,先天性疾患による変色に対して漂白は不適です.テトラサイクリン変色歯に対しては,表2の分類の1,2度のような軽度の変色には適応であるが,3,4度の濃い灰色や歯冠部にしま模様がはっきりと認められる症例には不適応です.しかし,実際に変色歯の漂白を希望されて来院される患者さんは,テトラサイクリンによると考えられる症例が最も多いのが事実であり,漂白以外の治療方法も含めて,患者とよく話し合ってから,漂白に踏み切る必要があるでしょう.また,歯髄壊死や歯髄内出血による変色はウォーキングブリーチの適応となります.Cのように,硬組織の実質欠損が認められる症例には,当然,漂白による改善は不可能であり,コンポジットレジン等による欠損部の修復が必要になるが,欠損量が少ない場合や修復予定の隣在歯に対して,修復に先立ち漂白を行い,漂白後のシェードに合わせた修復を行うといった方法がとられることもあります.

  表2 テトラサイクリン変色歯の分類(Feinmanら)

 

1度

 

淡黄色,薄い灰色,褐色

歯冠全体が一様に着色している

2度

黄色,灰色 1度より濃い

歯冠全体が一様に着色している

3度

濃い灰色,青みがかった灰色

しま模様をともなう

4度

強い着色

しま模様が著明

 


漂白を行う場合の重要事項

漂白処置時の軟組織の保護は当然重要でが,有髄歯の漂白を行う場合に特に考慮すべきことは,『カウンセリング』,『前処置』,『メインテナンス』です.

1.カウンセリング

歯科治療において,治療前のカウンセリングは重要ですが,特に漂白の場合は,処置前に時間をかけて患者さんと話し合う必要があります.(漂白に対する患者の疑問 表3)

3 漂白に対する患者さんの疑問

・だれでも漂白が可能なの?

・すぐに始められるの?

・期間は?

・費用は?

・効果はどれくらい続くの?

・効果を長持ちさせるには?

・歯への影響は? 安全性は?

・詰物,冠への影響は?

・診療室と自宅 どちらの漂白方法が効くの?

・歯医者さん以外でも受けることができるの?

 

@患者さんが気になっている内容の確認

患者さんが「歯の色が気になる」原因が何であるか,患者さんの話を聞き,それが前述の変色の原因(表1)あるいは古い修復物の問題であるかを確認,説明し,漂白対象の症例であるかないか,また,ラミネートベニアや前装冠等の他の治療法について説明します.

また,最近ではタレントや元タイガースのメジャーリーガーが,自然以上に白い歯でテレビに写っている映像が流れているため,それと同じ状態を求めて来れれる患者さんもおられます.

そのためにも,以下のようなことを説明しています.

○患者さんが求めている「白い歯」のイメージについて

自然な歯の色は,いわゆる真っ白ではなく,黄色や灰色が混ざった色をしているものである.

(変色歯でない場合,現在の患者さんの歯の色が,自然の色であることを説明すると,安心される方が私共の病院では3割近くおられます.)

○歯の色の見え方に影響を与える因子について

・隣接歯の色,補綴物

・歯肉の色

・照明の違い(太陽光,蛍光灯)

 etc.

○漂白で得られる「白い歯」と,修復物による「白い歯」の違い

漂白後の歯とラミネートベニア等の補綴物により得られる「白い歯」では,見た目の色が異なる.

(どちらが美しいという訳ではなく,もしも,患者さんが補綴物によって得られる白さと同じ白さを漂白により歯を削らずに獲得できると勘違いされている場合,漂白後のトラブルの原因になりかねません.)

A漂白を行うにあたって

診査の結果,漂白の適応症であった場合,歯の漂白について患者さんに知っておいていただきたいことを説明します.

○漂白には刺激性の薬物を使用する

 オフィスブリーチングの場合,処置歯の周囲の軟組織は防護し,安全には注意をはらうが,35%の高濃度の過酸化水素水を使用するもである.

(喉や眼などに過敏なヒトも存在する.)

○漂白後の歯には一時的に知覚過敏が発生する場合がある

知覚過敏は,ほとんどが数日で治る.

(下顎はエナメル質が薄いため起こり易いともいわれる.)

○漂白処置中,処置後に過敏症状等が認められた場合,中断することもある

処置中に疼痛等が発現した場合には,歯の色が希望の状態に近づいていなくても,安全のため中断する場合がある.

○漂白による効果の発現には差がある

例えば上顎6前歯なら,オフィスブリーチングで3回〜6回,ホームブリーチングで2週〜,と漂白効果が得られるまでには個体差があり,開始前に終了時期の予測が難しい.

○変化はあるが,成果が得られない場合もある

変色の程度が大きいかったり,歯冠の切端側と歯頸側で色が異なったり,しま模様があるような症例では,漂白により処置前よりも白くなるが,完全にしま模様が消失し,歯冠全体が均一な色調になることは困難である.

○漂白当日と翌日は食事制限が必要

オフィスブリーチングを行った当日とその翌日は,コーヒー,紅茶,カレー等の着色しやすい物は控える必要がある.

ホームブリーチングの場合は,なるべく就寝前にトレーを装着するようにし,その後は食事をしないようにする.

○漂白終了後,周囲の修復物の再製が必要になる場合もある

漂白により歯の色が変化することで,漂白以前の歯の色に合わせてあったコンポジットレジンや隣接歯の修復物の色が合わなくなる場合があり,漂白後の色に合わせて再修復が必要になることもある.

また,漂白後の再修復は,漂白を行った歯の色が落ち着いてから(約2週間以上経過)行うことになる.

○後戻り,半永久的なものではない

漂白は,歯を削ったり,人工物を詰めたりしている訳ではないので,時間が経過すると,歯面に有機物質などが沈着し,漂白終了時よりも色が後戻りします.少しでも後戻りを遅らせるためにも,漂白後も定期的にメインテナンスを受けていただきたい.また,ある程度まで後戻りしてしまったら,再び漂白を行うことも可能である.

患者さんは面倒に思われるかもしれませんが,歯を削っていない最大のメリットでもあります.

○メインテナンスの必要性

先ほどまでに記したように,漂白期間中および終了直後は知覚過敏等の有無の確認,終了後の後戻りに対する歯面清掃などを含めた定期的検診等の長期的なメインテナンスが必要です.

B写真撮影,シェード確認

漂白期間中や終了後に,患者さんに術前からの変化を示すために,漂白症例では術前の歯の状態を写真撮影(シェードガイドも写し込む)や,シェードガイドあるいは歯科用色彩測定器などを用いて患者さんと共にシェードを確認しておくことが必要です.

(つづく)